大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和26年(ネ)63号 判決

控訴人 原告 池田健爾

訴訟代理人 水戸野百治

被控訴人 被告 北海道農地委員会

訴訟代理人 斎藤忠雄

主文

原判決を取消す。

北海道亀田郡七飯村大字大沼市街百七十六番地の一山林二町六反十一歩及同番地の二山林一反四畝二歩(但し裁決に於ては両者を合せて百七十六番地と表示されている)の内一町三反四畝九歩につき被控訴人が昭和二十四年十一月十九日になした控訴人の訴願を棄却する裁決を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

双方の陳述の要旨は原判決の事実摘示と同一である。

証拠として控訴人は甲第一号証の一、二同二、三、四号証を提出し原審証人長沢彌吉片山幸治郎の証言を援用し、更に当審に於て右両証人の尋問を求め、被控訴人は原審証人小泉陽池田金助の証言を援用した。

七飯村農地委員会が昭和二十四年九月八日控訴人所有に係る主文記載の二筆の土地の内一町三反四畝九歩(但し地番及地積を百七十六番の内一町三反四畝九歩と表示)につき自作農創設特別措置法(以下自創法と略記)第四十条の二第四項第五号に基き買収計画を定めその公告をなしたこと、原告がその買収計画に直ちに異議の申立をしたが前記農地委員会はその異議を却下する決定をしたので、控訴人は法定の期間内に被告に訴願したが、昭和二十六年十一月十九日被控訴委員会はその訴願を却下する裁決をなし、右裁決は同年十二月十九日控訴人に告知されたことは争がない。

主文記載の二筆の土地の内には訴外長沢弥吉が採石及土砂捨場に使用している土地があるが、農地委員会が買収と定めた土地はこれを除いた部分であつてその現状は採草の目的に供される牧野と認むべきことは原判決理由記載の通りである。

そこで、右の牧野が自創法第四十条の二第四項第五号に該当するか否かを考えるに、この法条の趣旨は遊休牧野或は無権限者が放牧又は採草している牧野を買収すると云うのであるから、所有者或は賃借人がその権限により現にその牧野を採草の目的に供している以上は買収から免れる。そうして採草の目的に供すると云うのは必しも自求消費の目的で採草することを要しない。証人長沢弥吉の原審並に当審に於ける証言及証言により真正に成立したと認められる甲第二号証によると、訴外長沢弥吉は係争の土地を含む百七十六番地の一及同番地の二の土地全部を採石及土砂捨場とし、之に使用しない部分は採草地として使用する約定で、昭和十六年以来控訴人から賃借していることが認められる。そうして甲第四号証及証人長沢弥吉片山幸治郎原審並に当審の証言によると、長沢弥吉は昭和十八年頃から現在まで、係争土地の牧草を、その大部分は立毛のまま佐々木八十に売却し、その他は控訴人の飼つている畜牛の飼料に供していることがみとめられるから、長沢弥吉は係争土地を現に採草の目的に供しているわけであつて、自創法の前記法条に該当しない。然らば前記村農地委員会のした買収計画異議却下の決定は違法であり、被控訴人の訴願却下の裁決もまた従つて違法である。然るにその取消を求むる控訴人の請求を棄却した原判決は失当であるからこれを取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条を適用して主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 浅野英明 裁判官 熊谷直之助 裁判官 大崎孝之栄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例